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やさしい暮し舎

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愛知芸大キャンパスがかかえる問題

愛知県立芸術大学は、東京藝術大学 京都市立芸術大学に続く戦後初、日本において3校目となる公立芸術大学として建てられ、音楽学部と美術学部が置かれています。

キャンパスは名古屋市郊外の愛知郡長久手町にあります。設計は吉村順三とされていますが、東京藝大建築科教授会挙げての取り組みでした。
 どうしたらこの自然を損なう事無く キャンパス設計の計画ができるかに心をくだき、造成土量と自然林破壊をできるだけ少なくすることが計画の重点とする方針を立てたとあります。

詳しくは びお 特集 「吉村順三の仕事愛知芸大キャンパス訪問記」
www.bionet.jp/2010/06/aichigeidai/

このキャンパスに施設の整備計画の話し合いが進められ、その中で新音楽部校舎の実施設計まで決まっているとのこと。

新音楽校舎の建設には予定地の環境調査も行われず既に工事が始まっていながらほとんどの学生がどのような物が建つのか詳しくは知らないのが現状だそうです。
現在計画されている施設整備計画によりこのキャンパスの近代建築としての価値と周囲の自然環境に大きな影響があることを危惧した在校生有志主催で
「愛知芸大キャンパスが持つものー近代建築史と周囲の環境の観点から」というシンポジュウム行われ、それに伴い10時から2時間半、現地エクスカーション参加のよびかけがありました。

愛知芸大キャンパス 右端が吉村順三設計の講議棟 
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知ったのが一週間前と急なことでしたが、母校でもあり
何十年も前とはいえこのキャンパスの自然から学んだ事、受け取ったものも今にして思えば沢山あったと言う想いもあって、シンポジュウムには参加できなかったのでせめてエクスカーションには出てこの目で確かめて来ようと長靴持参で参加してきました。

予定地に降りて行くとそこはひんやりした湿地。
少し進んだところ水の流れる音がします。ここは竹にも侵略されていない豊かな雑木林です。

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音楽学部棟建設予定地は高低差10〜15mの急傾斜地からなり、コナラ、タカノツメ、サカキが主たる構成樹木とのこと。

足下にはスズカカンアオイが広範囲に見られうっかりすると踏んでしまいそう。
春にはキャンパス内にギフチョウが舞う県内唯一の大学としても知られていることからこのあたりのズズカカンアオイの葉にギフチョウが卵を産みつけている可能性もかなり高いそうです。

この群生地に音楽学部棟が建てられれば、スズカカンアオイほぼ絶滅するそうです
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建設予定地下部の谷地には清流が流れ、そこには
絶滅危惧種のハネビロエゾトンボや稀産種のミルンヤンマの幼虫が生息しているそうです。美しい水色のスリムなトンボが川辺にやってきました。
アサヒナカワトンボということです。
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名古屋市水辺研究会の方々が講師として現地で説明されていました。
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その場でタモ網で清流をすくうと難なくヤゴやらカワニナ、ザリガニが捕らえられ、見やすい様に白い器や、透明の小さな容器に入れて観察の後、ザリガニ以外は川に戻していました。
ザリガニは参加者の中の小学生に持ち帰ってもよいと許可が出てたのは他の水生生物を脅かす外来種であるから。

コオニヤンマ オニヤンマ コバントビケラ カワニナ
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この川の川底にカワモズクという水草が見られます。私は初めてその存在を知ったのですが、海のモズクと同じ様に三杯酢でおいしくいただけるそうです。水温が20度以下の清流に生息し、これほどまでの生育地は県内唯一とのこと。建設工事に伴い、激減あるいは絶滅の危機があると訴える水辺研究会の代表の國村氏。水辺研究会でも工事のことはまだ3月末に知ったところだそうです。
         
     カワモズク
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カワモズクの観察中に木々の間からキリリキリリという鳴き声。サンショウクイという渡り鳥だそうです。これも恥ずかしながら初めて聞く名前。勉強不足を実感しました。

また、淡水魚ではこの川にはカワムツA 型(ヌマムツ)が生息しているが、これも昔ながらの水辺環境が残されている池や河川に僅かに生息する
貴重な魚であるとのこと。尾びれに赤みがあるのがカワムツB型との違いだそうです。カワムツにA型やB型があるなんて……もちろん知りませんでした。
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学生の頃  30何年前ではありますが グランドの下の湿地にそれは可愛らしい白い金平糖のような花が群生していて、誰に聞いたかそれがシラタマホシクサという貴重な植物だということだけは知っていました。また もう少し奥に行けばリンドウも咲いていました。

名古屋市周辺も開発が進み、あの愛らしいシラタマホシクサもとっくに消えてしまったものと思っていましたが、キャンパスという特殊な隔離された環境ゆえリンドウもシラタマホシクサも健在だと知った時は嬉しかったです。レッドデータブックの絶滅危惧種(絶滅の危惧が増大している)だそうです。
なんとか保全したいものです。サギソウはもう少し後に咲くそうですが、トウカイモウセンゴケの花を見る事ができました。

その周辺にモゾモゾと動き回るのは!天然記念物であるヒメタイコウチです。それこそ小学低学年に見たきりのタイコウチ!
 
トウカイコモウセンゴケ ピンク色の小さなつぼみがついている。モウセンゴケは白、トウカイコモウセンゴケは花がピンク色
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 こんな浅い水辺で生息しているんですね のろのろしていて簡単に捕まります。湿地がなくなると
 すぐ生存不可能となるのでしょう。観察後はもちろんそっと元の場所にお返ししました。
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水生生物としては他にはスジエビ、プラナリア 昆虫類はハッチョウトンボ、ハネビロエゾトンボ、トビケラなど貴重な生き物達が生息しています。


相生山には無かった木としてはオオウラジロノキ。この木も名古屋市内では希少種であり、建設予定エリア内にあります。
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このキャンパスで過ごした者として起伏のある丘の形状を生かした校庭で寝そべって語り合った開放感は今も忘れられません。

平らな所は少なくどこも傾斜があり、それぞれが違う表情のある空間は独特の雰囲気を持ち、ここで自然からも何かを学び取って欲しいという設計者の意図を感じさせるものであったということを今更ながら思います。

透明なガラスで外から透けて見える作りの石膏室は、いかにも芸術の学び舎といった気分を感じさせそれ自体が作品のようにも見えていたのも設計者の企みだったのでしょう。著名な彫塑のレプリカの石膏像は等身大以上の大きな立像も何体か
あり、3方がガラス張りのおかげでその美しい姿が、いろいろな角度から眺めることができるのも心憎い演出です。
先生方が宿舎にしていた官舎にもモダンな中に和のテイストがありその魅力は若者にちゃんと伝わっていたことは間違いないのだと思います。
文化財としてこの素晴らしい吉村建築を後世に残して欲しいと願います。外から眺め鑑賞するだけではわからない魅力が、その空間で、学んだり、語り合ったり、ぼんやりしたりして長い時間過ごすことで多くのことを学生に伝わっていったことに違いないと信じます。
簡単に取り壊してしまう前に 改修して大切に使う方法を模索していけないものでしょうか。


またこのキャンパスの貴重な自然もなんとしても保全していきたいと切に願います。
自然を大切にする感性を育むことは芸術大学の教育として意味のある事と信じます。愛知県民としてもこの貴重な愛知県の宝物を是非守って欲しいと思います。なによりまずは学生にも地域の人、県民にも正しい情報を開示するべきと思います。




by yasashii-kurashi | 2011-06-18 15:45 | ちょっと言わせて